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ケースメソッド

Case Method

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ケースメソッドによる参加者中心型学修

アクティブラーニング(Active Learning)とは、参加者を中心とした探究型学修を指し、その代表的な実践法としてケースメソッド(1922年にハーバード・ビジネス・スクールで誕生)が知られています。欧米ではアクション・ラーニング、もしくは参加者中心型学修(Participant Centered Learning)などと呼ばれ、高校生、大学生、社会人、企業幹部など幅広い層を対象とした教育手法として確立されています。

アクティブラーニングの最大の特徴は「正解がない」議論を教員が教室内でハンドリングしなければならない点。正解・解答がある課題を教えることは、それほど難しいことではありません。しかしながら、アクティブラーニングが目指すのは、正しい「知識」の修得ではなく、参加者個人の「判断力や表現力」を高めることであり、参加者それぞれにとっての「納得解」を議論の中から引き出すファシリテーション能力が教員に求められます。


参加者中心の学修スタイル

名商大は、一方向的な講義で知識を詰め込む「座学」を脱却し、受講者が中心となり授業を作り上げていくアクティブラーニングを全ての授業で採用。実在する企業のケース(事例)をもとに、受講生同士で議論を深めるケースメソッドを実践しています。一人では思いつかなかった視点や考え方に気づくなど有意義な学修が可能です。

アクティブラーニングが必要な理由

アクティブラーニングの必要性を主張する根拠としては「学修定着率」の図がよく用いられます。この図はエドガー・デール(オハイオ州立大学教育学教授)が、その著書である「Audio-Visual method in teaching【学習指導における聴視覚的方法】(1946)」で提唱した学習経験の分類図でして「経験の円錐:Dale's Cone of Experience」と呼ばれています。この分類図によると「座学」の講義が「読書」にすら定着率の点において負けてしまうという悲しい現実を描いています。もちろん対象となる参加者の年齢層、実務経験の有無、もしくは教育内容によってこの定着度の数字は変化しますので、絶対的な指標として考える必要はありませんが、教育を行う私達の感覚に一致するところが大きく、グループ討論、フィールドワーク、プレゼンテーションといったピラミッドの下に位置する「アクティブラーニング」が注目されています。


高い学修定着率

アクティブラーニングの授業で行う「グループ討論」「自ら体験する」「他の人に教える」という3つの学修手法は、従来の座学に比べ学修定着率が高いことが報告されています。

アクティブラーニングの欠点とは?

そもそも、アクティブラーニングという言葉は「主体的な学修」を目指すという趣旨の標語のような存在で、何をどう工夫すれば実現できるのか?については実のところ各教員に委ねられがちです。すなわち、単にアクティブラーニングを実現しようと試行錯誤しているだけでは「健康的な生活」を目指そう!と励まし合っているのと同様なのです。では、健康的な生活を実現するためには、一体何を行えば良いのでしょうか?

  • 早寝早起きを心がける
  • 栄養バランスの取れた食生活
  • 習慣的に運動を行う

といった具体的な「メソッド(手法)」が存在するものです。同様に、アクティブラーニングを実現するための具体的な手法の一つが「ケースメソッド」となるのです。このケースメソッドについては後ほど詳細にご紹介しましょう。



アクティブラーニング導入の意義

アクティブラーニングを実施することの最大の意義は「正解のない議論を行う」ことに他なりません。多くの教員は「自分の教える科目では無理」と考えがちですが、それは「正解」を教えなければならないという固定概念に捉われているからでしょう。当然ながら知識もそれ自体重要ですが、知識のみを伝授するという作業が教員の仕事であるなら、近い将来AIにとって代わられてしまうでしょう。事実、予備校の世界ではビデオを活用したオンデマンド学習が普及しその傾向にあります。したがって、アクティブラーニングにおける教員の役割は「正解」のない質問を行うことであり、そのためには参加者による「予習」が必要となり、そこで議論に必要な知識を身につけることが求められるのです。

この予習に際しても参加者が個々に行っていては教室内でのアクティブラーニングは成立しません。多くの場合、共有情報としての課題が教員によって事前に提示されることになります。参加者はこの事前課題を自分の視点で捉え、わからない部分は調べ、レポートにまとめ上げる作業を伴います。


アクティブラーニングの実施方法


アクティブラーニングとは「参加者中心型の学修」を意味しています。アクティブラーニングでは、先生の役割は講師(レクチャー)ではなく進行役(ファシリテート)となります。したがって極論を言うと、ファシリテーターはあくまで中立的な立場から議論の進行をサポートすることになりますので、授業中に先生が自分自身の意見を主張したりすることはありません。教える側のみならず教わる側も意識を変えなければなりません。例を挙げますと...

  • 復習より予習を重視する
  • 正解探しを行わない
  • 記憶量ではなく授業への貢献度を重視する

となります。現実問題として「教科書に沿って準備された順に板書しながら...」という従来の教育手法を変えるのは容易なことではありません。数人の教員が頑張って実施できるものでもありません。学校の運営システムに関する事案も変更しなければ実施できない要素もあります。しかしながら、社会が確実に教育現場に求めているのはこのアクティブラーニングであり、文部科学省もその導入を推奨しているのが日本の現実です。アクティブラーニングが導入できない大学は淘汰されていくでしょう。


学生が創り上げる授業

授業を創り上げるのは、大学でも教員でもなく、あなた自身。高校まで全く異なった人生を歩んできたクラスメイトたちと議論をすることで、理解を深めていきます。多種多様な意見を交わすことで、あなたの新しい価値観としてビジネスに活かすことができるでしょう。

アクティブラーニングの目標と手法

アクティブラーニングには「知識」だけでなく「姿勢」を身につけるという目標もあるため、「主体的」に学修することが求められます。具体的には、アクティブラーニング授業では実際に起こった出来事に登場する主人公になったつもりで考え、クラスで議論します。この教材(ケース)に登場する主人公は何らかの意思決定に直面しており、もし自分が当事者であったら与えられた状況でどう行動するかを考え、グループで議論し、クラスで話し合うことになります。したがって、アクティブラーニングで何の準備もして来なければ発言することは難しくなりますが、きちんと事前にケースを読んで準備してこれば、あとは発言するだけ。知識修得だけを目標として一方的に話を聞くわけではありません。


ケースメソッドでのアクティブラーニング


アクティブラーニングとは、一方向的な授業で知識を詰め込むインプット型の学修ではなく、グループ学修やディスカッションを活用したアウトプット型の学修スタイルを指します。具体的には、アクティブラーニングを採用する教育現場では「ケースメソッド」が多く採用されています。ケースとは、主人公が実際の社会で悩んでいる状況を描いた一種の物語です。参加者はその主人公の立場で考え、判断するトレーニングを行い、自分の意見をクラスの中で発言する主体性を身につけることができるのです。参加者はリアルな教材に基づく課題を予習し、グループに分かれてどう対応すべきかを議論し、一人では思いつかなかった視点や考え方に気づくなど有意義な学修体験が可能となります。


ケースで磨く実践力

企業の現場における経営課題を自らの視点で考え、解決する力を養う実例体験「ケースメソッド 」。実例に対して詳しく分析し、学生間のディスカッションやグループワークなどを通して課題発見力や意思決定力を養います。

授業使用ケース例

  • Amazon
  • Apple
  • イケア・ジャパン(株)
  • 日本マクドナルド(株)
  • 本田技研工業(株)
  • サムスン電子
  • スターバックスコーヒージャパン(株)
  • ザ・リッツ・カールトン大阪
  • トヨタ自動車(株)
  • (株)セブン・イレブン・ジャパン
  • ソフトバンク(株)
  • エーザイ(株)
  • LINE(株)
  • (株)ヨドバシカメラ
  • スウォッチグループジャパン(株)
  • (株)髙島屋
  • (株)ザラ・ジャパン
  • 任天堂(株)
  • (株)セガゲームス 他

フィールドメソッドでのアクティブラーニング


アクティブラーニングの一環で実施されるフィールドワークでは教室の中だけに捉われず、「体験」と「発見」を通して課題を解決しながら学んでいきます。例えばアクティブラーニングを全面的に採用した「ビジネス行動観察」の授業では、参加者自身がキャンパスを飛び出して自身の目で消費者の行動を観察し、そこに潜む課題を発見するフィールドワークが組み込まれています。このようにアクティブラーニングの授業では実際に現場に赴き、対象となる人物やモノを観察し調査するフィールドワークを行う機会も多くあります。


大学で行われるアクティブラーニング


アクティブラーニングの手法として有名な「ケースメソッド」の特徴は、企業や組織の中で課題を抱える主人公の物語が描かれた「ケース」を利用する点にあります。参加者は予め与えられた質問事項(アサインメント)をもとに予習を行い、自分がもしその主人公であればどう考え、どう行動するかを授業中に発言することになります。こうしたケースメソッドの場合には参加者は、学期毎の定期試験ではなく、各回の授業における貢献度を中心に評価されます。

アクティブラーニングに本格的に着手している名古屋商科大学では、文部科学省「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」(H24-H26)において、中部地域23大学および産業界ともに、学生が能動的に学びに参加する「アクティブラーニング」に取り組みました。その成果物として、『アクティブラーニング失敗事例ハンドブック』を2014年11月に公刊。このハンドブックは、アクティブラーニングに取り組む際に困難に遭遇するであろう典型的な場面について、その原因・行動・結果を紹介するとともに、対策と知識化を行い、21の失敗事例についてまとめています。これからアクティブラーニングに取り組もうとしている方々にとっては、躓きの石になるだろう障害を上手に回避して、教育を設計するためのヒントが記されています。

アクティブラーニング失敗事例ハンドブック

アクティブラーニングの全面導入例


アクティブラーニング

名古屋商科大学では、MBA教育で長年培ったノウハウを元に、日本で初めて教養科目から専門科目まで全てアクティブラーニングで実施する「名古屋キャンパス(BBA)」を2016年4月に開始しました。参加者中心型の「アクティブラーニング」による教育手法を通じて、ビジネスに本当に必要な実践力を身につけ、自らの考えを社会で提案できる「フロンティア人材」の育成を行っています。2020年度には5期生を迎え、さらに成熟度が増したアクティブラーニング授業が展開されています。


アクティブラーニング実施に必要な要素


アクティブラーニング授業を行う際に何か新たに揃える必要はありませんし、アクティブラーニング専用の教室や椅子などというものも存在しません。つまりハード面ではアクティブラーニングはどの大学でもすぐに導入できるものです。IT技術は教育手法の幅が広がるという点において便利かもしれませんが、設備がないから出来ないと言うものではないと考えています。アクティブラーニングに臨む上で最も重要となるのは、以下のようなハード面以外の部分。授業を創り上げるのは、大学でも教員でもなく学生自身です。これら3つがなければ、アクティブラーニングは成り立たないと言っても過言ではありません。

  • 予習し議論に備える姿勢
  • 知識を主体的に学ぼうとする姿勢
  • 考えの異なる人と議論しようとする姿勢

アクティブラーニングでの成績評価

大学の成績評価といえば、授業最終日に行われる試験やレポートの点数で、90点以上ならS、80点以上ならA・・・、というように付けられることが一般的な認識かと思います。アクティブラーニングでは「授業貢献度」と呼ばれるものによって成績を付けることができます。「授業貢献度」とは、読んで字の如く「学生がどれくらい授業に貢献できたか」というものです。具体的にいうと、問いに対して的確な発言をしたり、授業を大きく展開させる内容や、新たな視点を発表した学生の評価は高くなります。発言回数が多いからといって、評価が高くなるわけではありません。一方、授業貢献度が低いというのは、授業に参加していないことが挙げられます。極端な話、毎回授業に出席していてもじっと座っているだけでは、評価の対象にならないということです。


なぜ定期試験が不用なのか?

経営管理課程(BBA)では定期試験を実施しません。アクティブラーニングによる授業は学生が討論しながら展開されるため、試験に向けての復習ではなく、授業に貢献するための予習を重要視します。そのためレポートや授業中の発言、その内容といった授業への貢献度が成績評価の対象となります。

アクティブラーニング実施前に教員が準備すべきこと

教員であれば誰もが陥りやすい「自分の教えている教科は特別」という思い込みこそが、アクティブラーニングの導入を妨げてしまいます。次に陥りやすい罠が「グループワーク」を導入すればアクティブラーニングという勘違いです。グループワークは事前学習を徹底するための自主的な場として運用した時にその効果が最大化することが知られており、グループワークはアクティブラーニング実施のための準備に過ぎません。グループワークにどんな課題を与えるのか、そして教員がどう関わるのか、参加者にどこまでを求めるのか、これらはアクティブラーニングでの学びを左右する重要なポイントです。

アクティブラーニングの本番はグループワーク後に実施されるクラス討論で、そこでの最大の課題は「いかに意見を引き出すか?」に集約されます、要は質問力です。教員のファシリテーション能力が問われることは当然ですが、具体的には「質問する能力」が確実に問われるようになります。アクティブラーニング実施に必要な質問には大きく分けて6種類存在し、これらを組み合わせてクラスをファシリテーションしていきます。

  • 課題質問(予習用の事前課題として)Assingnment Question
  • 単純質問(発言しやすい雰囲気づくり)Break Question
  • 極論質問(賛成か反対かなど意思決定を求める)Decision Question
  • 深掘質問(意思決定に基づいて本質に迫っていく)Engage Question
  • 反転質問(立場/状況を変えた質問で別の視点を加える)Flip Question
  • 一般質問(課題の本質に迫っていく)Generalize Question

アクティブラーニングに関する誤解

アクティブラーニングに対するよくある誤解に、以下の点が挙げられます。グループワークの実施は、アクティブラーニングの目標ではありません。参加者中心型の授業を行う上で、発言するために必要な「自信」や自分一人では気付けなかった「視点」を得るための手段として授業前に実施されるのであって、「グループワークを実施した=アクティブラーニングを実施した」という主張は少しズレています。

  • グループワーク
  • レクチャー(講義)がない
  • タブレットなどのIT装置が必要

また、アクティブラーニングにはレクチャー(講義)がないのでは?という点に関しては、欧米のビジネススクールでは、ケースという教材を利用してアクティブラーニングを実施しているのですが、授業の20%程の時間を割いて(多くの場合授業後半)議論の整理や先行研究の紹介など、クラス内の発言では出てこなかった視点の紹介などが講義形式で行われます。決定的なのが、IT装置(パソコンやモバイル端末)に関してで、アクティブラーニングが誕生したのは今から100年以上前の米国。教材の幅が広がるという点において便利かもしれませんが、設備がないから出来ないというのは奇妙な主張です。

アクティブラーニングを成功させる秘訣

これは実際に大きな規模でアクティブラーニングを運営すれば明らかなことですが、アクティブラーニングは「教員」と「参加者」だけでは実施できません。というのも事務局(職員)のサポートが最大限求められるためです。大学教育においては教育と事務が明確に分離されていることが多く、どれだけ教員がアクティブラーニング導入に積極的でも、事務局がその価値を理解して、彼等からの積極的なサポートが得られなければ、絵に描いた餅で終わってしまうのです。

事実、授業時間、資料配布、事前課題、教室配置、成績評価、学生指導など、アクティブラーニング導入において従来考えもしなかった工夫を事務局が行わなければならない局面は必ず生じます。しかもその対応は、事務局がクラス内で一体どのような教育が行われているか理解しなければ、見当違いのサポートになってしまいますし、教員のモチベーションも下がってしまうでしょう。

むしろ事務局がクラス運営に対してリーダーシップを発揮し、教員とともにアクティブラーニングを導入する姿勢を持つくらいの積極性がなければ、高等教育を取り巻く文化は変化しないのです。