教員 & 研究

Faculty & Research

ケースメソッド

Case Method

  1. TOP
  2. 教員 & 研究
  3. ケースメソッド
  4. 授業レポート
  5. アクティブラーニングで考える評価基準

アクティブラーニングで考える評価基準

#アクティブラーニング #アクティブラーニング事例紹介

矢部謙太郎先生による「社会学」の講義は、現代では当たり前となっている「能力・業績主義」という評価基準を、前時代的な「属性主義」と対比しながらアクティブラーニングで考えました。ケースは2010年に九州大学が発表した理学部数学科の「女性枠」採用について。このケースのように「性別」によって優遇されたり、「年齢」「人種」「階級」などでその人物の価値が決まるという考え方を「属性主義」といいます。チベットに鉄道ができたことで観光地へと変貌を遂げたある地域の映像を見ながら、近代化のプロセスについて議論します。


追求する自由


まずは、属性主義と能力・業績主義の特徴を捉えるため、学生に、属性主義よりも能力・業績主義の優れている点を聞きます。
「どのフィールドで自分を伸ばすか選ぶことができる点。」
「能力・業績主義は自身の価値を決めることができるので、頑張る余地がある。」
「例えば白人だから価値があるというのは、個人に価値があると認められたわけではなく、他の白人でも良しとされるので、能力で認められる方がいい。」

日本の古くからの慣習として、年功序列があります。能力の有無に関係なく、年齢が上がれば自動的に昇進・昇給があるので、若いうちは優遇されません。しかし、時代が進むにつれ評価基準は変化しています。能力・業績主義は年齢に拘りがないため努力する余地があります。これが近代社会の鉄則であり、より平等な評価だと考えられています。


聖地を観光地に


ある映像を視聴します。中国青海省の省都である西寧からチベット自治区のラサまで鉄道が開通したことで、今まで陸の孤島と言われていたラサに、日本人や欧米諸国からの観光客が多く訪れます。
このラサという地域はチベット仏教の聖地として、信仰心の篤いチベット人が両肘、両膝、頭を地面につける参拝方法、五体投地をしながら目指す場所として知られています。この土地の文化を体験すべく、多くの観光客がラサを訪れ、仏像や宗教画を購入したり、民族特有の参拝を見て楽しんでいる様子が映し出されています。
この鉄道の開通によって、ラサの人々の暮らしはどう変わったのか?学生は気づいたことを挙げていきます。
「民族の舞いなど伝統的な振る舞いを見世物として扱うようになった。」
「伝統的な建物しかなかったところに、ホテルや商業施設などが立ち並び街の景観が変化した。」
「信仰のための道具だった仏像や掛け軸を、売り物にするようになった。」
「自らの意思でしていた参拝が、観光客向けのパフォーマンスになり、次第に信仰心が薄れていった。」

様々な意見が出たところで、矢部先生はもう一つの質問を投げかけます。
Q.これらの変化で、どんな努力の余地が生まれましたか?
「観光客向けの演奏のプログラムを工夫したりパフォーマンスを向上させる」
「元々ある文化的な建造物をリニューアルして商業施設にする」
「売上を上げるために土産物になるものをもっとPRしていく」
「観光客向けに言語の勉強をする」

この「努力をする余地」というのは、ラサが観光地になる前には存在しませんでした。なぜならば、聖地や仏像や宗教画はそこに「ある」だけで尊く、民族の伝統的な舞踊も祭りや行事ごとで行うためだけのものであり、それらに金銭的な価値をつけようとは考えもしなかったからです。しかし、鉄道ができ、世界中から観光客が訪れる観光地となったことで、ラサの人々の評価は「属性評価」ではなく、「能力・業績評価」へと変わりつつあったのです。

視点をシフトする

ホテルで働くラサの人々は、社長から能力の高い従業員には多い給料を与えると言われます。努力すれば報われるという考え方が強くなるにつれて、伝統的・宗教的な色合いは弱体化していきます。あるだけで尊かった仏像や宗教画を、いかに安く仕入れて、高値で売るかと考えたり、給料のために自分の民族とは別の民族の舞踊を覚えて観光客の前で披露しているうちに、だんだんと信仰心が薄れていくのです。
社会学者のM・ウェーバーは、近代化の本質とは「脱呪術化」であり伝統や宗教に対して信じるべき、守るべきという考えが薄れていくことで合理的になり、近代化されると提唱しました。
ラサが聖地から観光地に変わったように、ある一つのモノを眺めた時に視点がシフトしたことで、その価値や評価が大きく変わるということを学生は学び、近代化の本質とはどのようなものなのかアクティブラーニングを通じて理解を深めた様子でした。