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経済学部:アメリカは中東に平和的秩序をもたらしてきたのか?《溝渕専任講師》

経済学部:アメリカは中東に平和的秩序をもたらしてきたのか?《溝渕専任講師》

本学経済学部の教員、溝渕正季先生の論文「冷戦終結以降の中東における地域秩序の変遷―「アメリカの覇権」の趨勢をめぐって―」をご紹介します。溝渕先生は上智大学大学院博士課程ご在学中にシリア・レバノンへの留学をご経験後、日本国際フォーラム研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ公共政策大学院ベルファー科学・国際関係センター研究員などを経て、現職に就かれています。

中東地域に対するアメリカの「深い関与」政策は、同地域に安定した平和的秩序をもたらしてきたのでしょうか。本論文では、まず平和的秩序はいかにして構築・維持することができるのかという問題が考察され、次にクリントン政権下のアメリカがどのような意図や手段によって中東地域に覇権的秩序を構築してきたのかが分析され、更にジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカが追求した「帝国的」対中東政策と、それに対する中東の諸勢力の反応が検討されています。最後に中東地域における平和的秩序とアメリカとの関係について、暫定的な結論が導かれています。


冷戦終結以降の中東における地域秩序の変遷
―「アメリカの覇権」の趨勢をめぐって―
溝渕 正季

はじめに

 アメリカは世界に対していかに関与すべきか。これは、アメリカにとっても、そしてアメリカ以外の全ての国々にとっても、きわめて重要な問いである。第二次世界大戦が終結して以降、現在に至るまでのおよそ60年の間、アメリカが世界に対して「深く関与(deep engagement)」してきたことはよく知られた事実である。しかしながら、こうしたアメリカの戦略に対しては、冷戦終結以降、とりわけ2003年に始まったイラク戦争や2008年の世界金融危機を経て、それが国益概念を拡大解釈していること、巨額の赤字を抱える財政を過剰に圧迫していること、世界中から反感を買い、反撃を受けていること、「帝国の過剰拡大」に陥って自滅する可能性が高いことなどを根拠として、様々な批判が加えられている。その一方で、世界に深く関与するというアメリカの戦略を支持する議論も依然として無視し得ないものである。
 しかしながら、ここで指摘すべきは、こうした議論の中では、関与される側の論理がしばしば見落とされているという点である。たとえばベッツ(Richard Betts)は、重要な地域大国(ドイツ、日本、サウジアラビアなど)との緊密な同盟関係や米軍の前方展開を維持・拡大することを通じ、アメリカが世界に対して「深い関与」を続けることは、逆に国際情勢を不安定化させ、「世界を[アメリカに対する]抵抗勢力へと駆り立てる試み」に過ぎないと批判している。これに対してブルークス(Stephen Brooks)らは、アメリカによる「深い関与」は同盟国を安心させ、それはアメリカに対する均衡化(balancing)どころか、むしろ追従(bandwagon)を促す、と反論する。だが、こうした議論の中ではただ「モデルとしての世界」が存在するのみで、アメリカの「深い関与」に直面した世界は実際にどのように動くのか、その内部の論理を実証的に研究する試みは不十分であると言わざるを得ない。
 以上の点を踏まえ、本稿では、実証研究の対象として、主に冷戦終結以降の中東地域を事例として取り上げる。言うまでもなく中東は、アメリカにとって戦略的に重要な地域の1つであり、同地域の安定はアメリカにとって死活的な重要性を有する。同時に中東は、冷戦終結以降の時期においてアメリカが政治的にも軍事的にも最も深く関与した地域の1つでもある。とりわけ2000年代前半に始まったイラクとアフガニスタンでの戦争には、少なく見積もっても総額で4~6兆ドルもの戦費をつぎ込むことになった。こうしたことから、アメリカの「深い関与」政策の帰結を分析するにあたって、中東は適切な事例であると言えるだろう。

続きはNUCB Journal of Economics and Information Science Vol.59 No.2をご覧ください。