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マーケティングは企業活動そのものー  マーケター 石井龍夫氏 インタビュー【前編】

メリーズ、ロリエ、ファミリー、キッチンハイター、マジックリン、ビオレ、アジエンス。
ここに挙げたものは私たちが毎日の生活のなかで目にする商品ばかりですが、実はこれらのどれもにある一人の人物が、マーケターとして関わっています。
今回は、C Channel 常勤監査役、Adobe エグゼクティブフェロー、株式会社イーライフ エグゼクティブアドバイザーとして活躍されている石井龍夫氏に、花王株式会社でブランドマーケティング業務に従事され、その後、デジタルマーケティング活動を統括された経緯について、商学部の学生より話を伺いました。



マーケティング業務に携わることになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?


花王株式会社(以下、花王)という会社はお客様に暮らしのなかで使って頂く商品を作る会社ですよね。そういう意味で言うと、自分の作った製品をお客様に使って頂けるというチャンスはすごく大事なことだと思います。私が作り出したものでビオレのさらさらシートという商品がありますが、開発のきっかけは、研究所がお風呂に入れないときに身体を綺麗にできる、簡単に使えるシャワーの代わりになるようなものを開発した、というものでした。ただ、それでは全然面白くないので、匂いや汗対策に対して感心の深い女子高生に使ってもらえるようにしよう、それならばパッケージも可愛いものにして、広告も女子高生の生活に密着したものにしよう、ということで方針を決定しました。私がさらさらシートを発売した時期は1999年頃だったと思いますが、今でも店頭にあり、若い世代の方たちが愛用してくれています。これがメーカーでマーケティングをするということの醍醐味だと思います。

メーカーに勤めるからには、なんらかの形で自分の関わった商品をお店に並べたい、お店に並べたからにはお客様に使って頂きたい、使って頂いたなら愛用して好きになって頂きたい、これができるのがメーカーでマーケティングを担当するメリットなので、「マーケティングをやりたい」と考えたんです。


最も印象に残っているマーケティングの仕事は何ですか?


さらさらシートも印象に残っていますが、アジエンスという商品も印象に残っていますね。
2000年当時、花王のシャンプーブランドには、若い世代の方たちに好んで使ってもらえるものがありませんでした。競争環境の中で、20代半ば〜30台半ばくらいの方々が是非買いたいと思うシャンプーを作りたいという思いから、成熟化しているシャンプー市場でどのようなコンセプトの新ブランドならターゲット層に受け入れられるのかを徹底して調査しました。さらに、泡立ち、色、香り、仕上がりはどういうものがいいのか、どんなデザインとブランド名ならコンセプトを納得して頂けるのかという声を、自分たちが作りたい製品像に結びつけ、最終的に2年半で商品化しました。
おかげさまで発売をして一年間で約100億円売ることができましたが、最も印象に残っているのは、当時の社長に対して、新シャンプーで100億円の売上げを目指すので、40億円を宣伝費として使わせてほしいと伝え、実際に使わせてもらったことです。実際はゼロから作るので確実に100億円の売上げを達成できるという保証はありませんでした。正直、胃に穴が空くかとも思いました。しかし、約束を実現して、自分がやるべきだと思ったこと、作りたいと思った商品がお客様や業界から多大な評価を頂いたという点で、非常に記憶に残っています。

シャンプーは通常ですと、製造ラインで液を自動でボトルに充填し、機械がキャップを閉めて出荷しますが、当初のアジエンスはこれまでに無いボトル形状を採用していて、キャップも少し特殊な形だったので、花王が得意とする高速の製造ラインでは自動でキャップを閉めることが不可能でした。「特殊なデザインは生産ができないので絶対にやめてほしい」と工場からは言われましたが、アジエンスブランドの世界観を表すためにはこのデザインでなければいけないと考えていたので、私は「なんとかこのデザインのまま工場で生産してほしい。このデザインでなければ発売はしません」と主張しました。結果的に工場が折れてくれ、なんと、従業員が手でキャップを閉めて工場のラインで製造するという対応をして頂けました。結果として、アジエンスはターゲット層に大きな支持を頂き、期待以上の売れ行きを記録したのですが、マーケターの思いが生産現場と消費者を動かした良い例だと思います。このような体験を出来るのもマーケティングを担当する醍醐味だと思います。


石井さんにとってマーケティングとはどのようなものでしょうか?


お客様にとって常に新たな価値を提供していくこと、そして、自分が世の中に存在していたという事実を残すこと、これが私にとってのマーケティングだと思います。
私にとってということではなく、私の目線から見たときにマーケティングとは何かということであれば、企業活動そのものがマーケティングだと思っています。例えば、生物の目的は繁殖して自分たちの種族を増やしていくことだと思いますが、企業も生命体と同じで、より大きくなることが目的です。商品やサービスを買って頂いて利益を出し、それを再投資することで企業は大きくなることができます。当然、良い商品や新しいサービスを創り出し、お客様に支持されなければ、売上は上がりません。まさにこの企業活動がマーケティングです。

会社に勤め企業人になったからには、是非マーケティングにチャレンジしてほしいです。しかし、マーケティング部門に所属することだけがマーケティングに関わることではないと思います。企業を成長させることにマーケティング視点で貢献する。部署は関係ありません。企業の様々な部門のメンバーがマーケティング視点をもって業務に取り組む、これが重要だと思います。
もう一つは、自分が企業人として生きてきた足跡が商品やサービスとして店頭や顧客の心に残るということ。私が花王の社員として存在した証がマーケティングだったかなと思います。たとえ、私が死んだとしても良い商品であれば世の中やお客様の心に残るわけです。これがマーケティングへチャレンジすることの意味だと思います。

ビオレは海外の店頭でもよく見かける商品ですよね。アジアやアメリカで販売されているビオレは、以前は日本のビオレとは異なるデザインの商品でした。日本人が海外へ行ったときに「ビオレがある」「ビオレって世界中で支持されているんだ」と思ってもらいたいと考えたことから、世界中のビオレのロゴを統一したんです。実は、あのロゴは私が決めたものです。共通のロゴにすることで、ビオレは世界で使われていると思ってもらえるようになりました。こうして自分がやるべきだと思ったことを実現し、結果が期待通りであれば、会社だけでなく、消費者の記憶に刻めることが出来るのがマーケティングの楽しいところです。



石井龍夫


C Channel 常勤監査役、Adobe エグゼクティブフェロー、株式会社イーライフ エグゼクティブ・アドバイザー。元花王株式会社 デジタルマーケティングセンター長。元花王クリエーティブハウス株式会社 代表取締役社長。

1980年花王株式会社(以下、花王)に入社、販売部門を経験した後、本社事業部門でブランドマーケティング業務に14年間従事。事業部門では、メリーズ・ロリエ・ファミリー・キッチンハイター・マジックリン・ビオレ等のブランドマネージャーを歴任後、新規事業プロジェクトの責任者としてアジエンスの新規ブランド開発とコミュニケーション立案を指揮。
その後、2003年から花王のweb活用の戦略立案と企画運営に携り、2012年にはデジタルコミュニケーションセンターを新設、花王のデジタルメディアの推進に貢献。
2014年3月にデジタルマーケティングセンターを設立し、退任までセンター長として花王のデジタルマーケティング活動を統括。
社外では、日本マーケティング協会のマーケティングマイスターやデジタルメディア広告電通賞の審査委員長などの職務も兼任。


マーケター 石井龍夫氏へのインタビュー記事は【中編】へと続きます