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マーケティングは企業活動そのものー  マーケター 石井龍夫氏 インタビュー【中編】

メリーズ、ロリエ、ファミリー、キッチンハイター、マジックリン、ビオレ、アジエンス。
ここに挙げたものは私たちが毎日の生活のなかで目にする商品ばかりですが、実はこれらのどれもにある一人の人物が、マーケターとして関わっています。
今回は、C Channel 常勤監査役、Adobe エグゼクティブフェロー、株式会社イーライフ エグゼクティブアドバイザーとして活躍されている石井龍夫氏に、花王株式会社でブランドマーケティング業務に従事され、その後、デジタルマーケティング活動を統括された経緯について、商学部の学生より話を伺いました。



大企業に属することで満足してしまう人が多い中で、石井さんが積極的に海外に行き、カンファレンスなどに参加するようになったきっかけは何でしょうか?


1998年頃にビオレの担当になったのですが、当時ビオレは花王の中で初めてのグローバルブランドだったんです。アメリカやヨーロッパ、アジア各国で発売しているため、担当者として海外へ出て、現地のメンバーと打ち合わせをする必要がありました。リージョンごとにパッケージデザインやロゴが異なり、このままではいけないのでロゴを統一しようと考えた時に、各国のビオレブランドの担当者をどう説得したら良いのか、ヘッドクォーターとしての考えを伝え、現地のマーケターと議論しなければならないという状況下で、グローバルに対して意識が広がったというのが理由の一つです。

その後、デジタルを担当することになりましたが、デジタルの世界では新たなサービスがどんどん出てきてスピード感がすごくあるんですよね。アメリカなどで新しいサービスや技術が登場すると、それから日本へ入ってくるのは早くて半年、遅いと3年程遅れて入ってきます。日本で待っていても新しい情報は入ってこないので、一早く手に入れるためには自分が出て行くしかありません。
デジタルに関しては、ニューヨークやサンフランシスコで大きなカンファレンスがあります。広告代理店の方がカンファレンスの記録を取り、レポートにして提供してもらえる場合もあるのですが、カンファレンスで語られた内容は文字となった瞬間に、既に死んでいる情報だと私は考えています。
例えば、プレゼンテーターが力を込めて話したことや、ボディランゲージを使って話したことは重要なポイントなのに、それがレポートになった途端、均一の文字で表されてしまいます。そこからは「今、何がトレンドなのか」という情報は伝わってきません。実際に海外に出かけて会場で聞いていれば、プレゼンテーターが繰り返し使う単語を耳にしたり、聴衆から拍手が出た瞬間に、これが今、彼らが一番気にしている話題なんだなということが分かります。そこから自分の中に新たに思い浮かんだアイディアに向けて、すぐに調査や行動に移せるというわけです。競合よりも先に、生きた情報を手に入れることが勝ち残る企業になるために重要ですよね。


マーケティングの仕事のやりがいはどのようなところにあると思いますか?


マーケティングの結果から何かを作り出す、それが無形のサービスであっても製品であっても、ものを作り出し、それを買ったお客様に喜んでもらえ、企業に売り上げと利益をもたらすのがマーケティングの仕事です。このようなサービスや製品、そして自分が達成したことが、企業の中にも、お客様に愛用して頂く商品としても、後に残っていくのがマーケティングへ携わることの価値だと思います。



マーケターはどんな仕事をしているんですか?


花王のマーケターには「マーケターとして忘れてはいけない心得」と言われていることがあります。それは「消費者に寄り添うこと」です。マーケターと言うと、机にしがみついてパソコンの前で数字の分析をしているというイメージを持たれると思います。確かにこれもマーケターがやらなければならないことではありますが、店頭へ出向き、お客様が商品を選んでいる姿を見たり、お客様が実際に商品を使っているシーンを見たり、意見を聞いたりすることが大切で、そこから何かを見つけ出すというのがマーケターのやるべき仕事だと思います。お客様の無意識な行動の裏側にある、理由や課題を推測し、課題解決につながる商品や施策を考えるのですね。

パソコンを前にして数字を読むということももちろん重要です。なぜこの商品が売れ、この商品が売れなかったのか。月曜日は売れ、水曜日に売れない理由は何か。
例えば、「ヘルシア」という商品がありますよね。競合品で、「特茶」という商品もあります。これらの商品のコンビニエンスストアでの売り上げデータを見ると、午前中の売り上げのピークのタイミングが一時間違うことがわかりました。ヘルシアは朝7時頃が売り上げピークになるのに対し、特茶は朝の8時頃に売り上げがピークになります。そこで仮説を考えました。ヘルシアはヘビーユーザーが習慣的にほぼ毎日飲む傾向があるので、家を出て駅までの道程のコンビニエンスストアで購入し、飲みながら歩いている可能性が考えられます。ピークに一時間の時差がある特茶は、電車を降り会社へ出勤するまでの道程のコンビニエンスストアで、昼食用のお弁当などと一緒に買っているのではないかと考えました。仮説に基づき、実際に特茶を買った人が一緒に買ったものは何かを調べると確かにお弁当を買っている人が多いんです。それなら、特茶のユーザーをヘルシアが切り崩すためにはお弁当と一緒に買うようなキャンペーンを実施すればいいのではないか、というように、データを見ながら机の上で一生懸命考えているのがマーケターです。
そして、この施策がこの商品の強化に最適だと考えついたら、経営層や関連部署へプレゼンテーションをして、自分のやるべきだと考えたことを実現させていきます。結果、売り上げ実績が自分の考えた通りになれば、これはやったぞ!と思うのが仕事の醍醐味ですね。


石井龍夫


C Channel 常勤監査役、Adobe エグゼクティブフェロー、株式会社イーライフ エグゼクティブ・アドバイザー。元花王株式会社 デジタルマーケティングセンター長。元花王クリエーティブハウス株式会社 代表取締役社長。

1980年花王株式会社(以下、花王)に入社、販売部門を経験した後、本社事業部門でブランドマーケティング業務に14年間従事。事業部門では、メリーズ・ロリエ・ファミリー・キッチンハイター・マジックリン・ビオレ等のブランドマネージャーを歴任後、新規事業プロジェクトの責任者としてアジエンスの新規ブランド開発とコミュニケーション立案を指揮。
その後、2003年から花王のweb活用の戦略立案と企画運営に携り、2012年にはデジタルコミュニケーションセンターを新設、花王のデジタルメディアの推進に貢献。
2014年3月にデジタルマーケティングセンターを設立し、退任までセンター長として花王のデジタルマーケティング活動を統括。
社外では、日本マーケティング協会のマーケティングマイスターやデジタルメディア広告電通賞の審査委員長などの職務も兼任。


マーケター 石井龍夫氏へのインタビュー記事は【後編】へと続きます