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“顧客のニーズを掴んで新たなモノを生み出す”

マーケター鈴木健氏インタビュー【中編】


今回は、山岡隆志教授よりニューバランス ジャパン DTC&マーケティング部 ディレクターへのインタビューを行いました。



山岡隆志教授(以下、山岡と表記):今はゼロから製品を作り出すことはあまりないかもしれないですけど、管轄も広いですし、直営店はゼロから作られている部分もあると思いますけどね。そういう感覚に近いのもので、やりがいを感じる仕事はなんですか?

鈴木健氏(以下、鈴木と表記):ナイキの頃もニューバランスもそうですけど、今度は人間に置き換えてみるとみんな健康のために運動はするべきだと思っていますけど、自分の生活の中にスポーツとか運動をとり入れていくのは、なかなか難しい課題です。今までスポーツブランドは、スポーツをしたい人しかターゲットにしていませんでしたが、特に2,000年代以降になって、全ての人にというか、そういうニーズはどんな人にもあって、自分に運動が向いていなくても運動をさせる方向へどのように導き出すかが、テーマとしては繋がっていると思います。

ニューバランスでも消費者のことを捉えるのに、他ではあまりやっていないペルソナの設定をしています。「メトロポリタンコンシューマー」、メトロポリタンとは「都会」のことですけど、基本的にスポーツブランドのお客様は、10代の部活動をしている子たちがメインですが、ニューバランスはそうではなくて、社会人の運動したい人たちという設定です。都会に住んでいる人の方が、時間の使い方が難しく、工夫しなければいけないからなんです。通勤したり、働いたり、あるいは他のレジャーをしたり、家事をしたりとか。そういう人たちの場合は、運動の都合を作ったりすることが非常に難しいので、彼らのライフスタイルにフィットするものを作れば、自然と運動が消費者のライフスタイルの中に入っていって、運動が得意な人しかやらないようなことじゃなくて、誰でも健康的に過ごせる製品やサービスを提供できるようになります。

女性の場合はスポーツが好きではなくてもスポーツをする、したいとかの意味合いでする。ダイエットなど頭ごなしに痩せなきゃいけないとなると、返って不健康になってしまう。そういう問題をどう解決するかというのと、運動時に非常に快適になるようにと考えていると、体の負荷が高い時でも快適に過ごせるという意味で製品開発をすれば良いわけです。非常に忙しい人たちやあるいは色んな多目的なシチュエーションでも過ごしやすい製品がこんな風に生まれてきます。

例えばストレッチが効いていたりとか、吸汗速乾できたりとか、日常レベルでスポーツブランドは製品機能として足していけるので、それも合わせて生活の中にいかに運動とか、あるいは体を動かすために快適な状態にしておくっていうのができるようになっていますね。あまり極端な運動の状況からではなく日常の中から発見しています。普通ランニングシューズはクッションが効いているものが多いのですが、数年ぐらい前から、速く走れる靴を作るようになりました。


普通そういう製品を求める人ってマラソンで3時間台で走ったりだとか、足が速い人しか買わないようなものだったのですが、「メトロポリタンコンシューマー」みたいな人たちを対象にすると、短い時間でしか走らないですよね、30分とか1時間とか、そうなると確かに楽なんだけど、短い時間だと達成感だとか、自分が走ったという感覚が得にくくなる。速く走りたい人の為の靴というのは、逆に反発性を高くしているんです。短い時間で効率良く運動したいという人たちの為には、そちらの方が良い。今までの競技だけからだと生まれなかったインサイトなので、そういうものを作るっていうのは、非常に面白い。


山岡:やはりプロダクト思考で考えるとどうしても性能を極めていこうという発想に陥りがちですよね。機能が良いのに越したことがないみたいな。どれだけ消費者側に入り込んで、そこに上手く溶け込むような、そういうイノベーティブなものっていうと、画期的な技術や今までにない製品みたいなプロダクト側に重きがありそうな感じがするんだけど、実はそうではなくて消費者側のどれだけ当たり前のようになれるかがイノベーティブみたいな、ちょっと逆説的な感じですけどね。まさしくそれを体現しているような事例ですね。

鈴木:スポーツブランドが持っている技術とか考え方は、そういうふうに展開できるかなと思っていて、今まで競技をやっていなかった人たちが対象なので、女性は今の目の前のお客様ですけど、日本においては、高齢化したお客様とかも対象になってくるとは思いますね。

山岡:鈴木さんの業務の中で、高校生もイメージがつきやすいマーケティングの仕事の一例教えていただいてもよろしいですか。

鈴木:メーカーとしてクレームとして聞くところというのは、特に外資系ではそうですけど、ある事業とか製品とか作ったけどすぐやめたりとか、長い意味で続けなかったりするじゃないですか。だけど私はマーケティングの立場としてメーカーのモノ作りからすると採算が合わないとか、数字がうまくいかないことはあるかもしれませんけど、マーケティングの仕事っていうのは、やっぱり高校生の時に自分が好きだった製品が、大人になってもずっと使い続けられるような仕組みを作る仕事だと思っていて、自分が良いと思ったものがなくなってしまうのが残念だと思うので、自分が気に入っている製品がいかに役に立っているかとか、あるいはどういう良いところがあるかっていうのを他の人に伝える努力をするのが一番大事なことだと思うので、それをやっている仕事だと思います。

山岡:良いですね。どうしても今みたいな質問をすると、「どうやって広告つくって多くの人に見てもらって、クリエイティブを活用して」というような回答が返ってくる場合が多いですけどね。消費者側にたった回答をいただけて大変参考になりました。


鈴木健氏のプロフィール


株式会社ニューバランス ジャパン DTC&マーケティング部 ディレクター
1991年広告代理店の営業としてスタート、その後消費財メーカーのマーケティング企画および調査を担当。02年ナイキジャパンでゴルフの広告やウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験。09年ニューバランスジャパンに入社し、ニューバランスブランドのPRおよび広告宣伝、販促活動全般を手掛ける。ブランドマネジメントおよび広告・プロモーションが専門領域。2017年より直営店およびEC事業を統括。

マーケター鈴木健氏のインタビュー記事は【後編】へと続きます