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人の期待に応えたいから、人間の本質を理解するー  マーケター 長瀬次英氏 インタビュー【前編】

長瀬次英氏 LDH JAPAN CDO × 山岡隆志教授 名古屋商科大学商学部


今回は山岡隆志教授より、LDH JAPAN CDO 長瀬次英氏へのインタビューを、本学ビジネススクール(大学院)東京キャンパスにて行いました。
「これまで手掛けた中で最もエキサイトだったプロジェクトは何か」「顧客ニーズの捕まえ方」といった実務経験談はもちろんのこと、「マーケターとして大切なものは何か」「結局、マーケターとはどういう職業なのか」など、マーケターのトップランナー同士だからこその白熱した対談となっています。



山岡隆志教授(以下、山岡と表記): まずは自己紹介をお願いします


長瀬次英氏(以下、長瀬と表記):LDH JAPANでCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)をしております。前職では、日本ロレアルで日本初のCDOに就任したということで、よくメディアにも取り上げて頂きました。その前は、Instagramの日本事業代表責任者としていわゆるプラットフォームビジネスを運営し、早い話が「収益を生みだす仕組み=マネタイズ」を作っていました。その前のfacebookでは新規開拓やビジネス推進関連ですね。今のLDH JAPANで8社目になるのですが、常にビジネスや新商品のローンチ、マネタイズ、エコシステム構築など単なる客観的分析官としてのマーケターとしてではなく、顧客に近い目線で、市場の見方、コンシューマー対応、顧客ひとり一人へのアプローチの仕方というものに重きを置いてビジネスを行ってきたというバックグランドがあります。


山岡:そもそも長瀬さんがマーケティング業務に携わるきっかけは何でしたか?


長瀬:どこからをマーケティング業務と定義するかという問題はありますが、キャリア2社目の広告会社(J.Walter Thompson Japan)時代でしょうか。クライアントのために物をたくさん売る、消費者との的確なコミュニケーションを行う業務ではないでしょうか。ただ、個人的には幼い頃に過ごしたアメリカという環境の影響もあって、周りを常に意識して生きてきました。それがマーケターとしての素養になっていると思います。多分どんな子どもも、家族に対してとか、子どもなりの小さなマーケットの中で”マーケティング”を意識しながら生きていると思うのですが、僕はそれが人一倍強かったのかなと思っています。


山岡:マーケターは周りの環境が育てると言いますが、マーケター自身の生い立ちも関係していると?


長瀬:はい、そう思います。数多くいるマーケターの中で、抜きん出た活躍をしようと思ったら、他人とはちょっと違うアプローチや戦略を提案できないと、CDOみたいなポジションにはなれないと思います。クリエイティビティの差は、その人の生まれ育った環境の違いなのかなと。多分、僕はいろんな意味で一際コンプレックスが強かった人間なので、自ずとその乗り越え方をずっと考えてきました。その経験がマーケターとしての強みになっていると思います。生い立ちや環境が日本初のCDOを誕生させたと言って良いと思います。


山岡:確かに、”負のエネルギー”は、長い目で見ると結果的にプラスになっていることはよくありますよね。ただ、その時は辛いんですけど。


長瀬:大人は気にしていないかもしれないけど、転校した時とか、子どもは子どもなりに新しい環境でいじめられないためにはどうしたら良いか、真剣に考えてますよね。そう言うこれまで「気にしてきたもの」が、自分自身のマーケティングセンスやビジネスセンスに繋がっていると思います。


山岡:なるほど。長瀬さんご自身の経験が、消費者や顧客を知ることにセンシティブな素養をもたらしたわけですね。


長瀬:そうだと思います。


山岡:数多く手掛けられてきたマーケティングの仕事の中で、印象に残っているものを1〜2つご紹介頂けますか。


長瀬:どの会社からも素晴らしい仕事を頂いているので、選ぶのが難しいのですが、あえて言うと、ユニリーバに在籍していた時の新商品のローンチでしょうか。


山岡:面白そう。具体的にお聞かせ下さいますか。


長瀬:一般的には、既存の商品サイズやパッケージや成分(味)を変更して、リローンチすることがほとんどだと思いますが、僕はユニリーバ時代に一から商品を作る経験をしています。しかも、「紅茶」というなかなか難しいカテゴリーで!この経験が一番印象的と言いますか、一番苦労した思い出ですね。苦労して産み出した”分身”が商品として世の中の棚に並んで、それが買われていくのを見る。しかも、その商品は今現在でも販売されているのですよ。単に売上を伸ばすためではなく、正しいサービスと商品を展開して、それを消費した沢山の人たちがホッと一息ついて幸せになっている姿を想うと、やっぱりやり甲斐があったなあと思います。


山岡:その商品「ピュアアンドシンプル」でグローバルアワードやマーケティングアワードを受賞されていますよね。どうやって商品化されたのですか?


長瀬:ネーミングの通り、飲む人たちの気持ちを考えて、本当にシンプルに直球で作りました。みんなが欲しがっているものをちゃんと作る事を徹底的に行いました。特に、モデル開発にはこだわりましたね。通常の紅茶って、100個入りとかで、個包装の上に仕切りがあって外箱があってしかもラップされているから、箱が不必要にデカイんですよ。顧客体験を考えたら、このデカさは不要だと思いました。だから、僕は個包装をやめる事にしました。紙を取った分、箱が小さくなりコストカットにもなりました。環境への意識が高まり始めていた時代でもあったので、「ピュアアンドシンプル」という商品名の通り、もの凄くシンプルに自然の恵みたっぷりの紅茶が簡単に飲めて、紙の削減による自然環境に配慮した紅茶を世に送り出したわけです。顧客や時代を読んだマーケティングって、やっぱり面白かったですね。


山岡:その辺りが長瀬さんにとって、マーケティング業務のやり甲斐でしょうか。


長瀬:そうですね。一番は、相手が何を欲しがっているのかを分かった時に尽きますね。相手のことを考えてモヤモヤしているよりは、やっぱり相手に聞いた方が早いと思うのですよ。「今夜何食べたい?」ってプライベートでは頻繁にやっている事を、ビジネスでも行うべきで、その方が良い商品やサービスを提供できると思います。そこは、僕は強く意識していますね。


山岡:でもそれって、実際には難しい作業なので、数多くの会社やマーケターが苦労している点ですよね?


長瀬:そうなんですよ。物事にはデータに頼れない部分が多分に含まれていますから。逆を言えば、デジタルやテクノロジーを用いて、リアルタイムで詳細なデータが取れれば良いと言うことでもありますけどね。例えば、山岡先生が「肉好き」ってfacebookに挙げていたとしても、今日の晩御飯に肉が食べたいかはわからないわけです。だったら、「その夜なに食べたい?」って聞く方が早いわけですよ。今聞かなきゃダメでしょ!っていう感覚でビジネスをやれた時って、ニーズにぴったりの商品やサービスを提供できるわけです。他人の期待に応えられるというのが、やっぱりこの仕事の一番のやり甲斐だと思いますね。


山岡:他人の期待に応えられた時の喜びって、何なんでしょうね。その辺りについての長瀬さんの奥底にある深層心理みたいなものを教えて下さいますか。


長瀬:人が好きだということなのだと思います。人が喜んで、幸せになったら気持ち良いと思えるからでしょうか。ただ、人を喜ばせるって簡単じゃないんですよね。人が欲しがるものを、欲しいタイミングで渡せなきゃ意味がないわけです。5年前に欲しかったものを今もらっても欲しくないわけですよ。良いタイミングで、欲しいものを欲しい人にちゃんと渡せる環境という視点は重要だと思うんですよね。例えば、その時好きな絵がいつでも飾れるサービスがあったら良いと思いませんか?絵を飾るにも”適材適所”があることを意識した方が良いと思います。


山岡:その絵に飽きたら次の新しい絵に変えられるサービス?


長瀬:そうです。人間は好みが時々で変わるんですよ。いま食べたいものが5分後に食べたいかは分からない。そういう人間の「本質」をきちんと理解した上でビジネスをやるのが楽しいですよね。


山岡:本当にその瞬間に欲しいと思っているタイミングを的確に捉えて、その人を幸せな気持ちにさせる。それこそがマーケティングの楽しさでしょうか。それって、人間に興味がないとできないことですよね?


長瀬:そうだと思いますね。僕が今まで携わってきた会社は、紅茶だろうが、広告だろうが、電話だろうが、化粧品だろうが、いずれも何とか人を幸せにしようと頑張っている会社ばかりだと言えます。結局、それを的確にできるか否かが結果に雲泥の差をもたらすと思いますね。だから、そこのセンスや手法・考え方を鍛えることはとても重要だと思います。


長瀬次英


LDH JAPAN 執行役員・CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)。
インスタグラム日本事業責任者、日本ロレアルのCDOを経て、現在は株式会社LDH JAPANにてチーフ・デジタル・オフィサー兼執行役員を担い、組織全体と事業全体 (音楽、ライブ/ステージ、映画/動画、アパレル/ファッション、飲食、GYM/スポーツ運営、教育/学校など) LDHが抱えるビジネス全体のデジタルアクセレレーションを推進している。史上初2年連続アド・テック東京(2017&18)で#1スピーカーを受賞、2018年1月に「Japan CDO of The Year 2017」を受賞。Forbes・Japan(2017年12月号)にて「カリスマCxO」の一人として特集される。

マーケター 長瀬次英氏のインタビュー記事は【中編】へと続きます