学部学科

Academic Programs

マーケターに聞く

Interview

  1. TOP
  2. 学部学科
  3. 商学部
  4. マーケターに聞く
  5. 波に任せれば、人生は好きなもので "コネクテッド" されていく【中編】

波に任せれば、人生は好きなもので "コネクテッド" されていく【中編】

#山岡隆志 #マーケティング学科 #名古屋商科大学 #商学部 #葉村真樹


山岡隆志 先生(以下、山岡と表記):ところで葉村さんが考える良いパフォーマンスとは何ですか。

葉村真樹 様(以下、葉村と表記):どれだけより多くの人に影響が与えられるかだと思います。世の中を変えられるとか、今までしていた生活と違うものを作り上げるとか。僕の成功体験で一例を挙げれば、スーツカンパニーを作ったこと。つまり、オシャレで見やすいツープライスのスーツショップというそれまで無かった形態のものを作りました。

山岡:では、マーケティングとは何でしょうか。

葉村:色々な定義をしている人がいるし、定義なんか必要ないっていうマーケターの方もいますが、僕は、marketingはやはりmarketとingなので、マーケット・市場を作り、そこでやり取りを発生させるという文字通りの意味だと思っています。さらに僕は、都市とマーケティングは別物だと思っていません。都市というのも、結局はそこに人が集まって、やり取りがあって、言葉のやり取りがあって、新しい価値が生まれたりだとか。そこで経済活動が起こったりだとか。人が集まってより多くの子供が生まれて家族が集まってとか。これはまさに市場・マーケットを作っているわけですよね。

山岡:都市とマーケティング。面白い視点ですね。

葉村:僕がGoogleに移りたいと思った理由でもありますが、世の中がデジタルへとシフトするにつれ、人の行動もそれに合わせてきていると感じていました。最初の方でお話しした一極集中している東京の問題を解決したい、地方の疲弊をなんとかしたいと思っていたので、その答えをデジタルに変わる中で見つけていかなくてはならないだろうと。当時は都市とマーケティングが結構離れたところに位置付けられていましたが、2020年近くになって両者はいよいよ近づいてきたなという実感がありますね。

山岡:やはり葉村さんの中でストーリーが繋がっているわけですね。

葉村:ええ。ですから大学からお声かけくださった時、色々な意味でタイミングがぴったりだと思いました。都市を基準にデジタルをやり、マーケティングもわかるので、今なら両者をぎゅっと統合できるなあと。先ほどの「今後は?」というご質問への答えとしては、学校で教育研究も進めながら実務もやり続けるのかなと思っています。体力の続く限りですけどね。

山岡:確かに、30代と比べるとパワフルさは損なわれてきましたよね。

葉村:正直ちょっとしんどい時ありますよね。

山岡:だからこそ波に任せるというか、自然に合わせる姿勢が重要になりますよね。私もある程度は予め決めますが、大抵その通りにならない。日本で勤務していた時、ビジネススクールに留学したくて必死に勉強していたら、アメリカ駐在の辞令があり、駐在員となれば仕事を離れにくいと思いましたが、断れないのでしぶしぶ赴任しました。考え方を変えて、アメリカなら働きながら通えるビジネススクールもあるので、今度はそれを狙っていたらフルタイムの良い学校のプログラムに予想外に合格してしまって。迷ったのですが、流れには逆らわない方が良い方がよいと思い、会社を辞める覚悟を決めフルタイムの学校を選びました。人事部に最初に言った時はやはり認められなかったので、退職すると言ったところ結局は休職扱いにしてもらえて、フルタイムの学校に行くことになりました。

葉村:そうそう、自分が想い描くのと違うものが降ってくるんですよね。

山岡:私はそういう事を受け入れてからMITに留学したので、MITでグレン・アーバン教授に出会った事を大切にしたのだと思います。彼との出会いがなかったら、カスタマー・アドボカシーという顧客志向の研究をやることもなかった。しかも、その研究をいまだに続けているわけですよ。あとあと紐解くと、自然に降ってきたものを素直に受け入れた方が、良かったのだなあと痛感しています。

葉村:そうですよね。人生って多分計画通りに行くのがなかなか難しいものですよね。スティーブ・ジョブズも人生を ”コネクテッド” って形容していますが、後ろに振り返って見るとあの時のあれが今のこれと繋がっている。

山岡:おっしゃる通りですね。一見すると全然関係ないように見えるものが、実は繋がっている。葉村さんの場合は、すごく離れているところにある場所からスタートしたものが、時を経てどんどん近付いてきている。しかも、それらは必然と偶然の両方で繋がっている。

葉村:ええ、そしてもう一つ大事な要素が、やっぱり好きか否かということですね。結局、それぞれは好きであることがベースにあって、こっちの好きなものが、そっちの好きなものとどこかのタイミングで繋がっていくわけです。

山岡:まぁそうですよね。私も学部は、金属の新素材の開発をするというバリバリの理系です。ゼロから何か新しいものを作るのが好きだったのです。しかし、その世界でイニシアチブをとるためには、アメリカでPhDを取るぐらいにならないといけないことが分かってきた。であれば、理系の道を進むより日本では文系の就職で、ゼロから新しいものを作る仕事に就いた方が良いと思い、普通に企業面接を受けて文系就職しました。その時は、マーケティングというものは知りませんでしたが、いつの間にかマーケターになっていました。ゼロから何か新しいものを作るのが好きなことは変わらず、事業開発とマーケティングの両輪でやってきました。金属材料と事業・製品と扱うものは変わっても、ゼロから何かを作りたいという基本ポリシーは変わっていません。

葉村:だからやはりどれも、すごくエクスタシーを感じるというか、最高に好き!と思うことがベースになっていますよね。僕の場合は、より多くの人の生活が変わるとか、しかも良い方向に変えたいっていう気持ちが共通していますね。


山岡:先ほど、マーケティングは文字通り、市場を作ることと定義されていましたが、そもそも葉村さんにとってマーケティングとはどんなものですか?

葉村:マーケットを考えた時には、絶対に人がいるわけですよね。やっぱりそこにいる人を理解することが一番。それが全ての根本だと思います。データやテクノロジーは発展しても、それらはあくまで手段なので、より深く人を理解できるようになったにすぎないと思います。

山岡:デジタル時代でも根本的なことは変わらないわけですね。

葉村:そうだと思います。一方で、マーケットを作っていく時に、やっぱり僕は「意志」っていうのが大事だと考えています。

山岡:ほお、「意志」ですか。

葉村:より多くのお客さんが増えて、もっと儲かれば良いというのは僕は違うと思っています。

山岡:そういうのが得意なマーケターもいらっしゃいますけどね。

葉村:いますね。例えばあるテーマパークを考える時、とにかくお客さんが来るようにすればいいというマーケティングも確かにあると思います。だけど、色々なコンセプトが入り込んでしまい、結果的には統一感のないテーマパークになってしまう可能性もあるわけです。

山岡:そうですね、来客数の増加に固執するマーケティングを続けると、ブランドも顧客も資産として積み上がらない短期的なものになってしまいますね。

葉村:その通りです。だからこそ、僕はテーマパークについて考えるなら、その時に訴求したいものや存在価値を大事にしたい。長期的に必要とされ続けるかどうかを考えるのはやっぱり大切だと思います。あえて来客数を最大値にしなくても良いから、世界観を何よりも重視します。

山岡:短期目線の売り上げより、長期的目線で価値観や理念などを訴求することが重要ですね。

葉村:本当にその通りだと思います。

葉村 真樹氏のインタビュー記事は【下編】へと続きます。

<葉村 真樹氏プロフィール>

東京都市大学総合研究所・大学院総合理工学研究科教授、パナソニック株式会社ビジネスイノベーション本部事業戦略担当。Google日本法人で経営企画室兼営業戦略企画部統括部長、ソフトバンクでiPhone事業推進室長、Twitter日本法人でブランド戦略部門日本及び東アジア統括、LINEで 執行役員(法人事業戦略担当)を勤めたのち現職。富士総合研究所(現みずほ総合研究所)で研究員としてキャリアをスタート。博報堂在籍時には、ストラテジックプランナーとしてNYフェスティバルAME賞、MAA The GLOBES Awards 金賞、マーケティング朝日賞大賞などを受賞。コロンビア大学建築・都市計画大学院修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(学術)。