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人に対する興味と俯瞰的な視点【下編】

#山岡隆志 #マーケティング学科 #名古屋商科大学 #商学部 #葉村真樹


山岡隆志 先生(以下、山岡と表記):GoogleやAmazonは、いわゆる「売り」とかマーケットとかを考えないで、人の根本的なニーズにフォーカスして、ユーザーファーストでまず多くの人に受け入れられるサービスを提供し、その後に儲ける仕組みを組み込んでいく。そうすると、結果的に大儲けになったという順番ですよね。逆に、最初からお金がチラつくと、小さい儲けにしかならない。

葉村真樹 様(以下、葉村と表記):そうですね。アメリカのシリコンバレーの企業も、お金儲けではなく、人を根本に据えて考えてビッグになっていますよね。

山岡:一方、日本の企業は、成功しても何千億ぐらいまでにしかならない。この差は、人間の根本みたいなところを追求しているかどうかによって生じていると思います。

葉村:それに加えて、アメリカでは会社として信じるものだったり、こうありたいと思っている姿を大事にする文化がすごくあると思うのです。例えば、日本のECサイトでは、色々な分岐点がある中で、より沢山のお客さんがとれていく形にすれば自然と儲かると考えて作っていきます。でも、AmazonやGoogleだと、そういう無機質な考え方は ”カッコ悪い” って言ったりしますよね。

山岡:そうですよね。アメリカ企業の方が日本企業より費用対効果で合理的に考えると思っている人いますが、実際には違いますよね。

葉村:ええ、アメリカの企業は、ブランドというか、企業としてのプライドだったり、社会とのバランスを考えていますよね。だから、長期的に大きくなれる。

山岡:それらが大きくなるためのエンジンを産み出し、その資産をしっかり貯めることにつながっていると思います。

葉村:そう、まさに資産を貯めていくという感覚をアメリカの企業は持っていると思います。

山岡:ちょっと日本の企業は、投資対効果みたいな部分に、目がいきすぎてる感じがしますよね。

葉村:そうですね。マーケターを含めてちょっとその傾向があると思います。

山岡:では、マーケター自体の求められる素養ってどんな素養になりますか?

葉村:やっぱりそれは、人に対する興味じゃないですか。そこはすごく大事だと思います。

山岡:興味を持って知る、理解するってことをスムーズにできるのがやっぱりマーケターとしての素養がある証拠ですよね。

葉村:マーケティングと言っても、色々な領域がありますが、日本のマーケティングは部分最適の「部分」を綺麗にしていくのは得意ですよね。でも、俯瞰的にバードビューで物事を見ることが出来るマーケターは少ないと思いますね。洋の東西を問わず、優れたマーケターは、俯瞰的に物事をみることがちゃんとできています。俯瞰的に物事を見れるセンスは、マーケターの素養としては必要かなと思います。

山岡:マーケターの素養として必須なのは、人に対する興味と俯瞰的な視点ですね。

葉村:ええ、その二つは、自分の間違いを認める勇気やデータへのきちんとした理解というところに要素分解されて現れていると思います。

山岡:今まで携われてきたマーケティングの仕事で、最も印象に残っている仕事はどんなものですか?

葉村:そうですねえ、儲かれば何でも良いわけではなく、また、ブランディングを結果論ではなく、マーケティングの入り口として捉えている今の僕の原点を創ったという点で、マツダでの仕事ですかね。

山岡:それは具体的にいうとどんな仕事だったのですか。

葉村:販売台数を伸ばすためにどう売るかじゃなくて、マツダでなきゃダメだっていうお客様をどれだけ増やすことが出来るか、カスタマーリレーションシップをどのくらい強いものに出来るかっていうアプローチをしました。それは、マツダ自身が自分は何者なのか、自分の存在意義は何かを入り口にしていきました。クルマを水に例えますと、この水を飲めば100才まで絶対生きられますよというのではなく、自分自身もその水のヘビーユーザーで、大好きだから自信持ってお客様にもオススメしたい!と思えるベース作りを大切にしました。

山岡:それは醍醐味がある仕事でしたね。では、マーケターのやりがいというか、マーケティングの楽しさっていうのは、どんなところにあると思われますか。

葉村:やっぱりそれをすごく感じるのは、その商品やサービスを手に入れたこと、利用したことによって、これまでになかった価値を提供したこと、生活がすごく変わったという事実が目に見えてわかった時は、やっぱり一番感動しますね。本当にエクスタシーと呼べる最高の瞬間です。


山岡:最後になりますが、高校生や大学生で、今後マーケティングに携わりたい、あるいはマーケターになりたいと思っている人に、キャリア形成上どういうことを目指していけば良いかなどアドバイスをくださいますか。

葉村:大学生で、もうマーケターを目指している人がいるのですね。すごい。

山岡:名古屋商科大学だと、商学部にマーケティング学科があるので、マーケターを目指している大学生はいますね。なぜ商学部を選んだのかと尋ねると、マーケティングを勉強したかったからという方が、会計を勉強したかったからと同数くらいいます。実際には、新入社員でマーケティングに配属というのは、一部の外資系を除いてはあまりなく、営業や現場からスタートが多いでしょうが、中長期的にみて、これからマーケターを目指す人は若い頃どんな経験を積んでおいた方が良いかなど、アドバイスをいただけると幸いです。

葉村:やっぱりまずマーケターは、人が好きじゃないとできないと思いますよね。だから、営業もいとわない人じゃないと、僕はマーケターにはなれないと思います。とにもかくにも人がベースだと思います。昔は面白くてカッコイイCM作ったり、パッケージ作ったりすれば良かったかもしれませんが、今やそういう時代は終わりました。紙ベースで上がってきたデータや数字を見ても、それだけでは人のことは理解できないわけですよ。肌感覚が紙の上には表れていない。だから、人と話すことが好きで、その人を本当に喜ばせたいという気持ちを持っていなかったら本物のマーケターにはなれないと思います。

山岡:そうですよね。やっぱり人が好きかどうかですよね。

葉村:マーケティング部署でこの人には叶わない!って思う回数は、女性に対する方が多い。数字の理屈で詰めていって、より多くのお客さんを獲得し、さらに売り上げを伸ばすという”男性的な”手法は、それなりに役割があると思いますが、やっぱりセンス的な部分で考えると、女性って共感力が高いなあと思います。これは男女差別する意図ではなく、経験談として。実際、海外行くと女性マーケターは多いですよね。

山岡:そうなのですよね。だから私も新しい組織を立ち上げた時に、採用するのも女性が多いし、なんか最終的に頼りになるのは女性ばかりだったとか。

葉村:そうそう、結果的に女性なのですよね。だから、もっと沢山の女性マーケターが出てきてほしいですよね。

山岡:本当にそう思いますよね。でも、女性はまだ少ない。まだまだ女性が活躍できない環境が日本の企業の中にはあるのでしょうね。

葉村:ええ、でもそのことは僕らが社会にいるうちに変えていきたいと思いますよね。

山岡:その点は、私も大学やビジネススクールでマーケティングの授業をやっている理由の一つでもありますね。未来のマーケターを育てたいし、何よりも、人に影響力を与えるような人間に成長して欲しいと思って教壇に立っています。

葉村:素晴らしいですね。

山岡:ありがとうございます。そのほか、大学時代にこういうことやっておいた方が良いよとかありますか。

葉村:実は僕の大学生時代はバブル期でしたから遊びにも忙しかったので、やっぱりもっと勉強しておけば良かったと思いますね。

山岡:そうですよね。時を戻すことはできないのですが、振り返ってみると教養を高めるとか、自分の専門とは全く違う分野ももっと勉強しておけば良かったと思いますよね。

葉村:勉強と同時に、友達を大事にすべきですね。マーケターになるような人は、嫌いな人とも積極的に人付き合いをした方が良いと思いますね。それと、できれば恋愛もした方が良いと思います。

山岡:振り返ると、限られた時間によくもまああんな無駄な時間の過ごし方をしたなと思いますよね。

葉村:そうそう。でもね、それで良いのですよ。例えば、キャンパスの芝生の上に寝転がって昼寝をするとか、本を読むとか、バイトに明け暮れるとか、恋愛するとか。実はどれもすごく良い時間だったりするし、無駄な時間を過ごしてしまったという感覚を身につけるのも大事だと思います。

山岡:それもセンスを磨く一つの方法ですよね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

<葉村 真樹氏プロフィール>

東京都市大学総合研究所・大学院総合理工学研究科教授、パナソニック株式会社ビジネスイノベーション本部事業戦略担当。Google日本法人で経営企画室兼営業戦略企画部統括部長、ソフトバンクでiPhone事業推進室長、Twitter日本法人でブランド戦略部門日本及び東アジア統括、LINEで 執行役員(法人事業戦略担当)を勤めたのち現職。富士総合研究所(現みずほ総合研究所)で研究員としてキャリアをスタート。博報堂在籍時には、ストラテジックプランナーとしてNYフェスティバルAME賞、MAA The GLOBES Awards 金賞、マーケティング朝日賞大賞などを受賞。コロンビア大学建築・都市計画大学院修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(学術)。